十三第七芸術劇場で「海炭市叙景」監督 熊切 和嘉 原作 佐藤 泰志 を観ました。次のような感想を持ちました。
どこでもある風景、例えば、電車に乗り合わせた隣の人、向かえ側の人 それぞれの人生がある、そんな日常を、作者佐藤 泰志は自身の故郷の函館を模して海炭市として、さまざまな普通の人を登場させ「海炭市叙景」を残し、41歳の若さで自らの命を絶った。
話は1989年頃、好況の日本経済も曲がり角に立っていた。造船会社では首切りの話、地上げしてショッピングセンターにしょうとする動き、燃料屋は浄水器などを扱って売り上げ低迷を打開しょうとするしたり、定年前の市電運転手が黙々と働いているし、プラネタリウムの職員は妻の夜の仕事に悶々としている・・・・ そんなこまごました日常をつなぎあわせた物語だ。
画面に出てくる男女や子供がどんな関係かを画面の細部から推理していく。くどくどしい説明はない。
その家にはひっこししてきたと思わせる包装材につつまれた家具がある。奥さんは30前後か、子供が小学高学年のようだ。夫は暴力をふるう二代目社長。夫婦仲は悪い。そこで観客は次のような想像をする。最近再婚した後妻か?妻がつらく子供にあたるのは継母だからか?夫が浮気しているからか?このような人間関係をそれぞれに類推させるシーンで多くが構成されている。その点、画面に見入ることになる。
熊切監督は大阪芸大出身の若手である。バブル後の一都市のできごとを精力的にしかし淡々と描いた。
2009年カンヌ映画祭でグランプリを取った第一次世界大戦前の次代を描いたドイツ映画「白いリボン」も、同様な手法で、主人公の先生を除く登場人物たちに、次々と事件が起こるが、余計な説明がなく観客が推理していく。その回答もない。子供たちが不気味なのは、後のナチスの登場を暗示しているという。
「海炭市叙景」は低迷のしりすぼみなこの20年の原点を暗示していると読むのか?その答えは観客にゆだねられている。どっしりと重たい。(11.1.24 中川 昌弘)
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