2011年6月15日水曜日

[Let’s watch movies]「奇跡」是枝裕和監督・脚本・編集

<ものがたり>「九州新幹線の一番列車がすれ違う時、願いをかければ、願いが叶う」そんな話を、母(大塚寧々)の里、鹿児島に引っ越してきた小学6年生の兄(“まえだまえだ”の前田航基)と福岡に父(オダギリジョー)と住む小学4年生の弟(“まえだまえだ”の前田旺志郎)がきく。別居を強いられる兄弟は九州の南北に分かれて、互いの父と母をきずかっている。一緒に住むのが「奇跡」と感じる兄弟は、それぞれ友達を誘って、九州新幹線の一番列車が交差する熊本にむかおうとする。子供たちの「旅」という未知の冒険で、話しはクライマックスに向かって進んでいく。感動の物語を紡ぐ。

<感想>大人の誰でも、各々の幼い頃、学校の先生から「大きくなったら何になる?」と問われたことと思う。この映画を観て、小生も、小四とき「ゴム会社の社長になる」(その頃、自主勉強でゴム会社を調べていた)小六の時は「電気会社の社長になる」何故かと先生に問われ、「戦死した父が電気会社に勤めていました」と言ったことを思い出して、映画の子供たちと一緒に心の中で叫んでいました。「奇跡」とは何か?観る人によって、それぞれの「奇跡」があるのかも知れない。この映画で得た、熱い思いは、忘れたくない。秀作だと思った。

 是枝監督はこどもに台本を渡さず、要点を示し自由に演じさせたとのことだ。「まえだまえだ」とその取り巻く子供たちの演技は自然だった。助演者陣に樹木希林・橋爪功・原田芳雄が存在感を示し、夏川結衣・阿部寛・長澤まさみが控えめに支える。スゴイ。妻と梅田ステーションシネマに観にいった。

 「奇跡」観る 少年の頃 思う梅雨
(☆☆☆☆☆2011年6月15日 中川 昌弘)

2011年6月9日木曜日

[本棚から]「ベニスに死す」トオマス・マン作 実吉捷郎訳

 「旅先のヴェニスで、出会ったギリシャ美を象徴するような端麗無比な美少年に、心うばわれた初老の作家アッシェンバッハは、美に知性を幻惑され、遂には死へと突き進んでいく。」

 以上は「ベニスに死す」の岩波文庫の表紙の解説である。ベニスのねっとりした空気のただようホテルで主人公アッシェンバッハは、古代ギリシャ時代の彫像にあったような美しい少年にであい、思わず、みとれてしまった。次第に少年のとりこになり、美の世界にさまよい、自らを没入していった。

 ルキノ・ビスコンティー監督のダーク・ボガード主演による「ベニスに死す」をDVDで観た。主人公の作家が作曲家に、主人公の周辺が創作されているが、完璧な原作の上にたつ完璧な映画となっていた。「老」と「若」、「偽」と「真」の対比により原作を立体的に、表出させていた。

 先日、神戸市立博物館に「大英博物館古代ギリシャ展」(6/12まで神戸 7月より国立西洋美術館で展示)を見にいった。古代ギリシャ展での展示物は、「筋肉」や「均整のとれた姿態」による造形美があった。

 「美の究極」は、それぞれの人生でそれぞれの人生ごとに発見構築されていくのであろう。その人生観とこの「ベニスに死す」が感応しあうはずである。(原作、映画とも☆☆☆☆☆  2011.6.9 中川 昌弘)