2011年6月9日木曜日

[本棚から]「ベニスに死す」トオマス・マン作 実吉捷郎訳

 「旅先のヴェニスで、出会ったギリシャ美を象徴するような端麗無比な美少年に、心うばわれた初老の作家アッシェンバッハは、美に知性を幻惑され、遂には死へと突き進んでいく。」

 以上は「ベニスに死す」の岩波文庫の表紙の解説である。ベニスのねっとりした空気のただようホテルで主人公アッシェンバッハは、古代ギリシャ時代の彫像にあったような美しい少年にであい、思わず、みとれてしまった。次第に少年のとりこになり、美の世界にさまよい、自らを没入していった。

 ルキノ・ビスコンティー監督のダーク・ボガード主演による「ベニスに死す」をDVDで観た。主人公の作家が作曲家に、主人公の周辺が創作されているが、完璧な原作の上にたつ完璧な映画となっていた。「老」と「若」、「偽」と「真」の対比により原作を立体的に、表出させていた。

 先日、神戸市立博物館に「大英博物館古代ギリシャ展」(6/12まで神戸 7月より国立西洋美術館で展示)を見にいった。古代ギリシャ展での展示物は、「筋肉」や「均整のとれた姿態」による造形美があった。

 「美の究極」は、それぞれの人生でそれぞれの人生ごとに発見構築されていくのであろう。その人生観とこの「ベニスに死す」が感応しあうはずである。(原作、映画とも☆☆☆☆☆  2011.6.9 中川 昌弘)

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